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生活保護 貧困対策に逆行 子育て世帯4割が減額へ
(東京新聞 2018年1月25日)

 二〇一八年度の生活保護費見直しで、約十五万に上る子育て世帯のうち四割近くが減額になる見通しとなった。政府はひとり親世帯への「母子加算」を平均二割カットするほか、児童手当に当たる「児童養育加算」も一部を減らす方針。野党は「子どもの貧困対策に逆行する」と反発している。
 ひとり親世帯に支給される母子加算は、現在の平均月二万一千円から一万七千円に減額されるが「ひとり親だからこそ必要となる経費が十分に考慮されていない」との指摘もある。
 子どもの健全育成のため、子育て世帯に支給する児童養育加算は、対象を現在の「中学生まで」(月一万円)から「高校生まで」(同)に拡大する。一方で三歳未満は一人当たり月一万五千円から一万円に減額。一般家庭には一万五千円の児童手当が支給されており、野党は「貧困家庭への差別だ」と批判する。
 高校生の学習支援費は、上限を年約六万二千円(定額)から約八万三千円(実費)に引き上げ、生活保護世帯の子どもが大学などに進学する際は一時金を支給する。
 受給費全体では、六割の子育て世帯で増額となるが、大学などに進学した場合、世帯に支給される保護費から子どもの分を大きく差し引く「世帯分離」の仕組みは残ったまま。専門家は「進学を阻む要因が解消されていない」としている。

◆就学援助、対象減る恐れ 保護受けない低所得世帯に余波

 政府が十月から生活保護の基準額を引き下げることで、生活保護を受けていない低所得世帯の子どもに給食費や学用品代を支給する「就学援助」の要件が厳しくなる、との懸念が出ている。低所得世帯への生活支援制度は、生活保護の基準額を参考に支給対象を決めるためだ。

 政府は影響が出ないようにするとしているが、就学援助は地方自治体の単独事業で、国に権限はない。五年前の前回に生活保護基準額が引き下げられた際、全国で多くの自治体が就学援助を縮小した。
 保育料の減免、医療保険の自己負担の上限額の軽減など多くの生活支援制度は、国の事業で、生活保護の基準額が引き下げられても、国の判断で適用要件を据え置くことができる。

 問題は自治体の単独事業で、特に就学援助への影響が懸念される。支給対象世帯として、各自治体が生活保護基準額の「一・一倍」「一・三倍」などの所得と適用対象を独自に定める仕組み。政府は前回の生活保護引き下げの際、各自治体に就学援助に影響させないよう要請したが、全国八十九市区町村で就学援助の基準が引き下げられ、多くの子どもが対象外となり、就学援助費を受け取れなかった。
 横浜市の場合、前回の生活保護基準額の引き下げ前は両親と小学生の子ども二人の標準世帯で年収約三百五十八万円以下を就学援助の対象としていたが、引き下げ後の一四年度から約三百四十四万円以下に。推計九百七十七人の子どもが対象から外れたという。

 東京都中野区も、標準世帯(横浜市とは世帯人数などが異なる)で基準を年収約三百三十五万円以下から、一四年度に約十一万円下げた。就学援助を受ける子どもの割合は一三年度の24・8%から、一七年度は19・8%と大きく減った。
 区教育委員会事務局は「判断基準は生活保護に準じているため、厳格に適用した」と話す。 (編集委員・上坂修子)

<生活保護> 憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、自立を助ける制度。収入が国の定める最低生活費に満たない場合、不足分を支給する。食費や光熱費などに充てる「生活扶助」や家賃に充てる「住宅扶助」、義務教育に必要な学用品を賄うための「教育扶助」などがある。生活扶助は5年に1度見直され、政府は2018年10月から全受給世帯の3分の2で段階的に最大5%引き下げ、3年かけて国費計約160億円を削減すると決めた。